【決算教室⑥】ソニーの決算を読む|純利益1兆円なのに最終赤字?両方正しい理由

決算教室

こんにちは、あひる先生です。決算教室第6回はソニーグループ(6758・2026年3月期本決算)。

いきなりクイズです。この年のソニーの純利益は——

A:1兆309億円の黒字
B:3,269億円の赤字

……正解は、「両方正しい」。同じ会社の、同じ年の決算なのに、です。

任天堂回の学びが「何が売れたかで、利益率が変わる」だったなら、今回は「何を含めたかで、利益そのものが変わる」。シリーズ最高難度ですが、ここまで来たあなたなら読めます。まずは「ソニーって何の会社?」から始めましょう。

最初に大事なお約束

この記事は、公表された決算資料を「教材」として読む練習です。ソニーグループ株の売買を推奨するものではありませんし、株価の予想もしません。「読み方」を身につけることが目的です。

この記事で使う一次情報

ソニーグループ「2025年度 連結業績概要(2026年3月期決算短信)」
ソニーグループ「決算説明会資料・補足資料」「有価証券報告書」
ソニーグループ 公式サイト「IR情報」(https://www.sony.com/ja/SonyInfo/IR/

※本記事では、上記の公表資料を教材として、決算の読み方を解説します。数字はすべて公表資料に基づき、表は筆者が作成しています。

この記事を読むと分かること

多事業の会社を「セグメント」で読む方法(実践編)
純利益が「黒字」にも「赤字」にも見える理由(継続事業・非継続事業)
会計上の損失とキャッシュ流出は別物であること
同じゲームでも、ソニーと任天堂でモデルがどう違うか

STEP0:ソニーは「何で」稼ぐ会社?——5つの主要事業

2026年3月期の、外部のお客さんに対する売上高(外部顧客向け売上高)で見ます。

セグメント外部顧客向け売上高構成比
ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)4兆5,701億円36.6%
エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)2兆1,848億円17.5%
音楽2兆905億円16.8%
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)2兆590億円16.5%
映画1兆4,863億円11.9%
その他・全社約889億円0.7%

出典:ソニーグループ 公表資料より筆者作成。このほか、セグメント間の取引・消去があります

ソニーグループの2026年3月期の外部顧客向け売上高構成。ゲーム&ネットワークサービスが36.6%で最大、エンタテインメント・テクノロジー&サービス17.5%、音楽16.8%、イメージング&センシング・ソリューション16.5%、映画11.9%、その他・全社0.7%。最大はゲームの約37%だが、裏返すと約63%はゲーム以外で、多事業の会社はセグメントから読むという図解

最大はゲームの約37%。裏返すと、売上の約63%はゲーム以外。テレビ・カメラ、半導体(イメージセンサーは世界シェア首位級)、音楽、映画がそれぞれ2兆円前後で並ぶ——任天堂が「一本足の職人」なら、ソニーは「多刀流の集合体」です。⑬のセグメント情報が、これほど活きる会社もありません。

なお、ソニーはトヨタと同じIFRS採用。「経常利益」が存在しない決算書です(階段は営業利益→税引前利益→純利益)。

STEP1:表紙の数字——継続事業の営業利益は過去最高水準

項目2026年3月期(継続事業ベース)前期比
売上高12兆4,796億円+3.7%
営業利益1兆4,475億円+13.4%(過去最高水準)
当社株主に帰属する継続事業からの純利益1兆309億円減益

出典:ソニーグループ 公表資料より筆者作成

表のあちこちに「継続事業」という見慣れない言葉が入っていますね。実はこの年、ソニーには会社のかたちが変わる大きな出来事がありました。この言葉の意味が分かると、冒頭のクイズが解けます。

STEP2:セグメントで読む——「どの事業が」稼いだのか

全体の営業利益1.45兆円は、どの事業が稼いだのか。決算資料によると——

  • G&NS(ゲーム):営業利益4,632億円で過去最高。PS5の販売台数は減ったものの、ネットワークサービスが好調。PS5累計販売台数は9,300万台を突破、PlayStation全体の月間アクティブユーザーは約1億2,500万アカウント
  • 音楽:配信サービスからの収入増で好調
  • I&SS(半導体):イメージセンサーが業績を牽引
  • ET&S:テレビ販売の不振などで減益

好調と不調が同じ会社の中に同居している——これがセグメントを見る意味です。全体の数字だけでは、この凸凹は絶対に見えません。

全体の数字だけでは、好調と不調の“同居”は見えない。多事業の会社は、まずセグメントから読むんだ。

補足ボックス:会社同士のつながり——ホンダ側から見た景色

今回の決算には、ソニー・ホンダモビリティのEVモデル発売中止・事業縮小に伴う追加的な持分法投資損失449億円も計上されています。ホンダ回で見た「EV戦略見直し・約1.3兆円」を覚えていますか? 同じEV戦略の見直しが、出資する両社の決算に、異なる形・規模で現れたんです。会社は一社ずつ読む——でも、会社同士はつながっている。⑳の「風」の実物版です。

STEP3:純利益1兆円と最終赤字——なぜ両方ある?

いよいよ本題。2025年10月、ソニーは金融事業の「パーシャル・スピンオフ」を実行しました。保有していたソニーフィナンシャルグループ(SFGI)株式の80%超をソニー株主へ分配し、連結子会社から外したのです(一部の株式はソニーが引き続き保有しています)。

これにより、決算上、金融事業は「非継続事業」として区分されました。そして——

金額
① 当社株主に帰属する継続事業からの純利益+1兆309億円
② 非継続事業(金融など)の損失▲1兆3,578億円
③ 非継続事業を含む当社株主に帰属する当期純損失▲3,269億円

出典:ソニーグループ 公表資料より筆者作成

ソニーの2026年3月期の2つの純利益の図解。継続事業からの純利益はプラス1兆309億円でニュースの見出しはこちら。非継続事業の損失は1兆3,578億円で、うち約1兆3,778億円は会計上の振替。合計の当期純損失は3,269億円で株式情報誌の業績表はこちら。一方、連結営業キャッシュ・フローはプラス1兆9,456億円で、会計上の振替は資本合計やキャッシュ・フローに影響しない。数字は金額の前に何を含むかを確認するという内容

黒字も赤字も、どちらも正しい。違うのは“何を含むか”。数字は金額の前に、範囲を確認しよう。

ニュースの見出しは①、株式情報誌の業績表は③——どちらも正しい。「純利益1兆円」と「最終赤字」は、含める範囲が違うだけなんです。

数字を比較するときは、金額の前に「何を含む数字か」を確認する。売上高の「+3.7%」も継続事業ベースの比較で、金融込みだった前年と単純に並べると景色が変わります。会社のかたちが変わった年は、ここが決算読解の最重要ポイントです。

STEP4:会計上の損失と、キャッシュの流出は別

「でも、▲1兆3,578億円って、そんな大金が消えたの?」——ここが今回いちばん大事な理解です。

この損失の大部分(約1兆3,778億円)は、金融事業の連結除外に伴い、それまで「その他の包括利益」という項目に蓄積されていた金額を、非継続事業の純損益へ振り替えたものです。ソニーはこの処理について、資本合計やキャッシュ・フローには影響しないと明記しています。

約1兆3,778億円は“会計上の振替”。資本合計・キャッシュ・フローに影響なし。現金が消えたわけではない。

つまり、1兆円超の現金が突然流出したわけではありません。実際——

  • 最終損益(非継続含む):▲3,269億円
  • 連結営業キャッシュ・フロー:+1兆9,456億円

CFの回の「利益とキャッシュは別物」、そしてホンダ回の「赤字なのに営業CFプラス」——シリーズで積んだ道具が、ここで全部つながりました。

ついでにもうひとつ。ソニーの従業員数は前年から約1万7,400人減っていますが、主な要因は金融事業の連結除外で、ほかにET&Sの構造改革やI&SSの海外子会社売却等も含まれます。数字の急変を見たら「何の変化による数字か」を一段掘る——従業員数でも同じです。

STEP5:任天堂と比べる——同じゲームでも、モデルが違う

ソニー G&NSセグメント任天堂(全社)
売上高4兆6,857億円2兆3,130億円
営業利益4,632億円3,601億円
営業利益率約9.9%約15.6%

出典:両社公表資料より筆者作成
※ソニーはG&NSセグメント(セグメント間取引消去前・全社費用の配賦なし)、任天堂は全社の数字です。会計基準・集計範囲・費用配賦も異なるため、優劣比較ではなく、事業モデルの違いを見るための概算比較です。

ソニーはG&NSセグメント、任天堂は全社。会計基準も集計範囲も違う。優劣ではなく“モデルの違い”を見る比較。

ソニーのゲーム事業は、売上だけなら任天堂全社の約2倍。ところが営業利益は接近していて、この集計方法では、営業利益率は任天堂の方が高く見えます。

背景にはモデルの違いがあります。ソニーG&NSは、ハード・ネットワークサービス・他社ソフトの流通・自社制作ソフトを含む大規模なプラットフォーム事業。任天堂もプラットフォームを持ちますが、自社IP・自社ソフトの寄与が比較的大きいのが特徴です。「額と率」と「何で売れたか」——同じ道具で、違う会社のかたちが見えてきます。

STEP6:財務・指標も「ベース」を確認

※指標は株価等で変動します。四季報等の公開データに基づく概算です。

  • 自己資本比率:約52%、社債・借入金:約1兆円、現金同等物:約2.2兆円——無借金の任天堂とは財務設計が異なります。負債額だけで安全性を決めず、現金・自己資本・CF・事業規模とセットで見るのが基本です
  • 研究開発費:約7,620億円——任天堂(約1,900億円規模)との比較は、会計基準・事業範囲・費用分類が異なるため優劣ではなく規模感の比較として。半導体からゲームまで戦線が広い会社の投資規模です
  • ROEも「どの純利益を使うか」で変わる——ソニーの公式資料では、非継続事業を含む最終損失だったため通常のROEは表示せず、継続事業の純利益を使ったROEは12.6%と説明しています。一方、株式情報誌では合計損益を反映した参考値として▲4.0%、翌期予想14.3%が掲載されています。ベースが違えば、純利益だけでなく指標も変わる——今回の主題の、完璧な実例です
  • PBR:2倍台後半(四季報掲載時点の概算)——自動車勢とはまったく違う世界。なお、ソニーは2024年10月に1株→5株の株式分割をしているため、過去の株価・配当との単純比較には注意

ROEまで“ベース”で変わる。公式12.6%(継続事業)と参考値▲4.0%(合計)は、矛盾していないんだ🦆

STEP7:これからどう見る?——減収増益予想と増配

2027年3月期の会社予想は、売上高12兆3,000億円(▲1.4%)に対し、営業利益1兆6,000億円(+10.5%)——任天堂に続く減収増益予想です。純利益は1兆1,600億円と2期ぶりの過去最高を見込み、年間配当は35円へ10円の増配方針(※2025年度には現金配当とは別に、金融スピンオフによるSFGI株式の現物配当もありました。株主還元は現金だけとは限らない、という珍しい実例です)。

トヨタ・ホンダ(維持)、日産(無配)、任天堂(業績連動)、ソニー(増配+現物配当)——6社で配当の景色が完全に出そろいました。

今回使った基礎記事(教科書との対応表)

今回見たこと対応する基礎記事
セグメントで会社を読むセグメント情報とは?
IFRSと利益の階段決算教室①トヨタP/Lの5つの利益
利益とキャッシュは別物キャッシュ・フロー計算書
額と率・モデルの違い粗利率・営業利益率とは?
会社同士のつながり「風が吹けば桶屋が儲かる」決算教室③ホンダ
減収増益の読み方増収増益とは?4パターン
配当・株主還元配当利回り・配当性向

今回の学び——まとめ

  • 数字は「何を含むか」とセットで読む…継続事業か、非継続込みか。同じ年の純利益が黒字にも赤字にもなる
  • 会計上の損失とキャッシュ流出は別…包括利益からの振替は、資本合計・CFに影響しない。営業CFは+1.9兆円
  • 多事業の会社はセグメントから…好調と不調の同居は、全体の数字では見えない
  • 同じ業界でも、かたちが違う…集計範囲の注意つきで比べれば、モデルの違いが見える
  • 指標もベースで変わる…公式ROE12.6%(継続事業)と参考値▲4.0%(合計)は矛盾しない

自分でも確かめてみよう

ぜひ一次情報でも確かめてください。ソニーグループ公式サイト「IR情報」から、決算短信・説明会資料が無料で読めます。ゲーム・音楽・映画好きなら、推しの事業がどれだけ稼いでいるかを見るだけでも楽しいはずです。

証券会社の企業情報ページは、売上・利益・指標・過去推移を一覧で確認する入口として便利です。ただし、今回の「継続事業」「非継続事業」のような特殊要因までは、一覧画面だけでは分からないことがあります。まず証券会社の画面で全体をつかみ、気になる年は決算短信や注記まで確認する——この使い分けが、企業分析を続けるコツです。これからNISAや個別株投資を始める方は、手数料だけでなく、企業情報・決算情報・過去業績の見やすさも比較しておきましょう。

※リンク先の記事にはプロモーションが含まれる場合があります。

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最終更新日:2026年7月27日

※本記事は、ソニーグループが公表した決算資料等を教材として「決算の読み方」を解説する教育目的の記事であり、同社株をはじめ特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。株価・業績の将来を予想・保証するものでもありません。記載の数字は2026年3月期決算(2026年5月8日発表)の公表情報および株式情報誌等の公開データに基づく概算を含みます。最新かつ正確な情報は、同社の決算短信・有価証券報告書等の一次情報をご確認ください。株式投資には元本割れのリスクがあります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。

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