【決算教室③】ホンダの決算を読む|上場以来初の赤字は「危険信号」なのか

決算教室

こんにちは、あひる先生です。決算教室の第3回はホンダ(7267・2026年3月期本決算)です。

トヨタは「売上最高なのに大幅減益」、スズキは「営業減益なのに純利益最高」。そして今回のホンダは——営業損益・最終損益ともに赤字。外部報道では、最終赤字は1957年の上場以来初とされています。

「赤字!ヤバい会社だ!」……と思った人。ちょっと待ってください。今回の最大の学びは、「赤字=お金がない」とは限らないことです。損益計算書では赤字でも、キャッシュフローを見ると本業で現金を生み出していることがある——ホンダの決算は、その実物教材です。

最初に大事なお約束

この記事は、公表された決算資料を「教材」として読む練習です。ホンダ株の売買を推奨するものではありませんし、株価の予想もしません。「赤字が良い/悪い」を判定する記事でもありません。「読み方」を身につけることが目的です。

この記事で使う一次情報

  • 本田技研工業「2026年3月期 決算短信」
  • 本田技研工業「2026年3月期 決算説明会資料」
  • ホンダ 公式サイト「投資家情報」(https://global.honda/jp/investors/

※本記事では、上記の公表資料を教材として、決算の読み方を解説します。数字はすべて公表資料に基づき、表は筆者が作成しています。

この記事を読むと分かること

  • ホンダは「何で」稼ぐ会社か(実は二輪の巨人)
  • 上場以来初の最終赤字の“中身”——減損・一時費用とは何か
  • 赤字なのに営業キャッシュフローは1兆円超プラスの理由
  • 赤字期のPER・PBRの読み方

STEP0:ホンダは「何で」稼ぐ会社?

セグメントの視点から。ホンダの報告セグメントは4つです。

セグメントざっくり内容今回の見どころ
二輪事業バイク・ATVなど絶好調。会社全体を下支え
四輪事業自動車・EV関連損失・関税影響で苦戦
金融サービス事業ローン・リースなど四輪販売と関連
パワープロダクツ事業及びその他汎用エンジン・発電機など小規模だがホンダらしい領域

出典:本田技研工業「2026年3月期 決算短信」より筆者作成

ここで意外な事実をひとつ。ホンダは世界最大級の二輪車メーカーです。今回の二輪のグループ販売台数は2,210万台(前期比+153万台)——四輪の338万台の6倍以上。しかも二輪事業は、インドやブラジルを中心に販売を伸ばし、過去最高の販売台数・営業利益を達成しました。一方で四輪事業は、EV関連損失や関税負担で厳しい決算。つまり今回のホンダは、二輪が支え、四輪が重しになった決算と整理できます。

STEP1:決算短信3か所チェック——数字の「結果」

項目2026年3月期前期比
売上収益21兆7,966億円+0.5%
営業損益▲4,143億円(赤字)1兆6,278億円の悪化
税引前損益▲4,033億円1兆7,209億円の悪化
親会社の所有者に帰属する当期損益▲4,239億円(赤字)1兆2,597億円の悪化

出典:本田技研工業「2026年3月期 決算短信」等より筆者作成

売上はほぼ横ばいなのに、利益だけが1兆円以上消えて赤字に。

業績予想:ところが2027年3月期の会社予想は、売上収益23兆1,500億円、営業利益5,000億円・純利益2,600億円の黒字転換見込み(想定為替は1ドル=145円)。配当も年70円を予想しています。……赤字なのに、来期はいきなり黒字予想? ますます「この赤字は何なのか」が気になりますね。

STEP2:赤字の“正体”を読む——減損・一時費用とは

決算資料によると、赤字の主因はEV関連損失 計1兆5,778億円。内訳は、米国で販売中のEVの損失引当・減損(第3四半期までに2,671億円)と、北米EVモデルの発売・開発中止に伴う追加損失(第4四半期に1兆3,106億円)——減損損失や部品メーカーへの補償金などです。あわせて、トヨタ回でも登場した米国関税の影響が▲3,469億円ありました。

「減損」とは何か——ざっくり理解

減損損失とは、工場や開発資産などが当初期待した稼ぎを生めなくなったとき、帳簿上の資産価値を切り下げて費用計上する会計処理です。ポイントは2つ。

  • 過去の投資の“清算”であり、計上時点で同額の現金が一気に出ていくとは限りません
  • 一度計上すれば、翌期以降は同じ費用が続かない(一時費用)ことが多い

ただし注意。今回のEV関連損失には、減損だけでなく損失引当や部品メーカーへの補償金なども含まれます。「全部が現金の出ない費用」と見るのではなく、P/LとCFを分けて確認することが大切です(後半で実際に確認します)。

減損=全部“現金の出ない費用”ではないよ。引当や補償金も含まれる。だからP/LとCFの両方を見るんだ。

つまりホンダの赤字は、「本業が回らなくなって毎年赤字が続く」タイプではなく、「EV戦略の見直しという意思決定に伴う、過去の投資の一括処理」という説明が資料から読み取れます。だから来期は黒字予想に戻る——構図がつながりましたね。

もうひとつ大事な注意。一時費用だからといって、なかったことにはできません。EVに投じた資金や経営判断が、想定どおりの収益につながらなかったという事実は残ります。戦略の見直しが今後どう実を結ぶかは、これからの決算で確認していくことになります。

一時費用でも、なかったことにはできない。投じた資金が想定どおり回収できなかった事実は残る。

STEP3:トヨタ・スズキと読み比べる——三社三様

会社決算の見どころ学べること
トヨタ売上最高なのに大幅減益(関税▲1.38兆円)増収減益は中身で読む
スズキ営業減益なのに純利益最高(原材料高+成長投資)利益の“段”で見方が変わる
ホンダ最終赤字でも営業CFプラス(EV関連損失▲1.58兆円)利益とキャッシュは別

出典:各社「2026年3月期 決算資料」より筆者作成

決算教室1〜3のまとめ図。トヨタは売上最高なのに大幅減益で主因は米国関税、スズキは営業減益なのに純利益過去最高で主因は原材料高と成長投資、ホンダは最終赤字でも営業キャッシュフローはプラスで主因はEV関連損失。同じ自動車でも決算の中身は会社ごとに違うことを示す

同じ2026年3月期の自動車メーカーでも、トヨタは外から吹いた風、スズキは自ら選んだ投資、ホンダは構造転換の痛み——セクターで学んだ「個社差」の総仕上げのような並びです。「自動車業界は苦戦」と一括りにされても、中身は一社一社まったく違う。決算教室3回分の、これが総まとめです。

STEP4:ここが主役——赤字なのに、営業CFは1兆円超のプラス

最終赤字▲4,239億円のホンダですが、営業活動によるキャッシュフローは約+1兆1,352億円のプラス。期末の現金及び現金同等物は約5兆1,184億円あります。

ホンダの2026年3月期は最終損益が4,239億円の赤字だった一方、営業活動によるキャッシュフローは1兆1,352億円のプラス。赤字の主因であるEV関連損失(減損など)は帳簿上の処理が中心で、その期に同額の現金が出ていくとは限らないことを示す図解。P/LとCFは分けて見るという学び

損益計算書は大赤字。でも本業の現金創出は続いてる。“利益とキャッシュは別”——これが今回の主役だよ。

なぜこんなことが起きるのか。キャッシュフローの回で「黒字なのにお金がない(黒字倒産)」を学びましたが、これはその逆パターン。赤字の主因だった減損などの一時費用は、帳簿上の処理が中心で、その期の現金流出とは一致しないからです。損益計算書は大赤字でも、本業の現金創出は続いている——利益とキャッシュは別物の、これ以上ない実例です。

会社も決算説明で、事業会社のネットキャッシュ約3.3兆円、事業会社(金融サービス除く)の自己資本比率55%という財務の健全性を強調しています(※金融事業を含む連結全体の自己資本比率は約35%。どの範囲の数字かで値が変わるのも覚えておきたいポイントです)。

配当については、会社はDOE3.0%を目安とした安定的・継続的な配当方針のもと、2027年3月期も年間70円を予想しています。「赤字だからすぐ無配」という単純な話ではなく、キャッシュフロー・財務体質・配当方針をセットで見る必要がある、ということです。

STEP5:赤字期の指標の読み方——数字が“ブレる”とき

指標の回で学んだPER・PBRを、赤字企業に当てるとどうなるか(2026年5月末ごろの株価水準に基づく概算)。

  • PER:赤字の期は計算できません(利益がマイナス)。利益が赤字だったり一時要因で大きくブレている局面では、PERは“壊れた温度計”のように企業の実力をうまく映せないことがあります。株式情報誌などの外部予想では、翌々期の利益回復を前提にPERが大きく下がる計算になることもありますが、これは会社予想ではなく、外部予想と株価時点に基づく数字。PERを見るときは、どの期の利益を分母にしているかを必ず確認しましょう
  • PBR:約0.5倍——株価が1株あたり純資産を大きく下回っている状態です。ただし、PBR1倍割れ=本当に会社の価値より安い、という意味ではありません。純資産は会計上の数字であり、資産の中身や将来の収益力もセットで見る必要があります
  • ROE:▲3.5%(赤字なのでマイナス。ROEの回の「なぜこの水準か」の視点で)
  • 予想配当利回り:4%台後半——高く見えますが、配当の回で学んだとおり、株価が下がると利回りは高く“見える”。利回りの高さだけで判断しない、の実例です

赤字期のPERは分母を確認。PBR1倍割れ=本当に割安、ではない。指標は“なぜこの水準か”とセットで。

今回使った基礎記事(教科書との対応表)

今回見たこと対応する基礎記事
赤字の中身(一時か構造か)増収増益とは?4パターン
どの段の損益か売上高・営業利益・純利益の違い
二輪という大黒柱セグメント情報とは?
赤字でも営業CFプラスキャッシュフロー計算書の読み方
財務の体力・自己資本比率B/Sの読み方
赤字期のPER・PBRPER・PBR・ROEとは?
利回りが高く“見える”理由配当利回り・配当性向
三社三様の個社差セクターとは?

今回の学び——まとめ

トヨタ=外の風、スズキ=投資の踊り場、ホンダ=構造転換。三社三様、決算は一社ずつ自分の目で読もう。

  • 「赤字=お金がない」とは限らない…最終赤字▲4,239億円でも、営業CFは+1.1兆円。P/LとCF・B/Sを分けて見る(今回の主役)
  • 赤字には“種類”がある…構造的な赤字か、一括処理による一時的な赤字か。中身を読む
  • 減損=過去の投資の清算…現金流出とは一致しないことが多い。ただし引当・補償金も含まれるので「全部現金が出ない」ではない。そしてなかったことにはできない
  • 赤字期は指標がブレる…PERは分母を確認、PBRは中身とセット、利回りは“見え方”に注意
  • 三社三様…トヨタ=外部の風、スズキ=投資の踊り場、ホンダ=構造転換。「業界」で一括りにしない

自分でも確かめてみよう

ぜひ一次情報でも確かめてください。ホンダ公式サイト「投資家情報」から、決算短信・決算説明会資料が無料で読めます(https://global.honda/jp/investors/)。

今回のように、赤字決算を正しく読むには、売上・利益だけでなく、キャッシュフローや自己資本比率まで確認することが大切です。証券会社の企業情報ページでは、P/L・B/S・CF、投資指標、関連ニュースをまとめて確認できることがあります。これからNISAや個別株投資を始める方は、手数料だけでなく、財務情報・決算情報の見やすさも基準に証券会社を選ぶと、企業分析がしやすくなります。

▶ 初心者向け|NISA口座はどこで開く?証券会社の選び方を見る

※リンク先の記事にはプロモーションが含まれる場合があります。

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最終更新日:2026年7月12日

※本記事は、本田技研工業が公表した決算資料等を教材として「決算の読み方」を解説する教育目的の記事であり、同社株をはじめ特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。赤字・黒字の評価や株価・業績の将来を予想・保証するものでもありません。記載の数字は2026年3月期決算(2026年5月14日発表)の公表情報および2026年5月末ごろの株価水準に基づく概算を含みます。最新かつ正確な情報は、同社の決算短信・有価証券報告書等の一次情報をご確認ください。株式投資には元本割れのリスクがあります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。

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