【決算教室④】日産の決算を読む|同じ「赤字」でも、ホンダと何が違うのか

決算教室

こんにちは、あひる先生です。決算教室の第4回は日産自動車(7201・2026年3月期本決算)。これでトヨタ・スズキ・ホンダ・日産の国産4社が出そろいます。

前回のホンダは「上場以来初の最終赤字。でも営業キャッシュフローは+1.1兆円」でした。今回の日産も最終赤字です。じゃあ同じ?——いいえ。同じ「赤字」という見出しでも、中身は同じではありません。今回の主役はこれです。

赤字は、4つの窓で見る。——①どの段から赤字か、②初めてか継続か、③キャッシュはどうか、④配当はどうか。この4つで、赤字の“質”が読めるようになります。

最初に大事なお約束

この記事は、公表された決算資料を「教材」として読む練習です。日産株の売買を推奨するものではありませんし、株価の予想も、会社の将来の断定もしません。「赤字が良い/悪い」を判定する記事でもありません。「読み方」を身につけることが目的です。

この記事で使う一次情報

  • 日産自動車「2026年3月期 決算短信」
  • 日産自動車「2026年3月期 決算発表資料」
  • 日産自動車 公式サイト「IR情報」(https://www.nissan-global.com/JP/IR/

※本記事では、上記の公表資料を教材として、決算の読み方を解説します。数字はすべて公表資料に基づき、表は筆者が作成しています。

この記事を読むと分かること

  • 赤字の「質」を見る4つの窓
  • 「経常利益」が実物で登場(日本基準の決算)
  • ホンダの赤字と日産の赤字の違い
  • 再建計画と決算の“答え合わせ”

STEP0:日産は「何で」稼ぐ会社?——と、ひとつ予備知識

セグメントは大きく「自動車事業」と「販売金融事業」。クルマを作って売り、ローンやリースでも稼ぐ——構造はトヨタやホンダと同じ型です。グローバル販売台数は315.1万台(前期比▲19.5万台)でした。(参考:セグメントとは?

そしてひとつ予備知識を。日産は日本基準で開示しているため、P/Lの5つの利益で学んだ「経常利益」が出てきます(トヨタ・ホンダ・スズキはIFRSという国際基準で、表記が異なります)。細かい会計基準の違いを覚える必要はありませんが、営業利益→経常利益→最終損益とどう変わっていくかを見る教材として、今回はぴったりです。(参考:P/Lの5つの利益

STEP1:決算短信3か所チェック——数字の「結果」

項目2026年3月期前期比
売上高12兆79億円▲4.9%
営業利益580億円(黒字)▲16.9%
経常利益10.8億円▲99.5%
親会社株主に帰属する当期純損失▲5,331億円前期▲6,709億円から赤字幅縮小

出典:日産自動車「2026年3月期 決算短信」より筆者作成

日産の2026年3月期の利益の階段。売上高12兆79億円、営業利益は580億円の黒字だが、経常利益は10.8億円まで細り、特別損失4,415億円により最終損益は5,331億円の赤字。営業黒字でも最終赤字になることを示す図解

営業は黒字、最終は大幅赤字。“どの段の話か”で決算の見え方はまったく変わるんだ。

見てください、この利益の階段。営業利益は580億円の黒字。なのに経常利益はほぼゼロ。そして最終損益は▲5,331億円の大幅赤字——利益の階段で学んだ「段ごとに景色が変わる」の、極端な実例です。

そして、最終赤字は2期連続(前期は▲6,709億円)。ホンダの「初めての赤字」とは、まずここが違います。

業績予想:2027年3月期の会社予想は、売上高13兆円、営業利益2,000億円(約3.4倍)、純利益200億円の黒字化を見込んでいます。配当は、損益の見通しや手元資金の状況を勘案し無配の予定です。

STEP2:階段のどこで、何が起きた?

営業利益580億円——本業の“稼ぐ力”の水準

まず営業段階。580億円の黒字は確保しましたが、売上12兆円に対する営業利益率は0.5%。利益率の回の視点で他社と並べると——トヨタ約7%、スズキ9.9%、ホンダ(調整後)4.8%。※厳密には会計基準・事業構成・調整後利益の扱いが異なるため単純比較はできません。ただ、営業利益率0.5%という水準を見ると、本業の利益の薄さが大きな論点だと分かります。(参考:粗利率・営業利益率とは?

経常利益ほぼゼロ→最終▲5,331億円——営業外と特別損失

営業利益から下の階段では、営業外の損益で経常利益がほぼゼロ(10.8億円)まで細り、さらに特別損益▲4,415億円——工場再編などの構造改革に伴う費用や減損が重なり、最終損益は▲5,331億円となりました。

ホンダ回で学んだ「一時費用」と似ています。でも、決定的な違いがあります。次で見比べましょう。

STEP3:ここが主役——赤字の質を「4つの窓」で見る

同じ2026年3月期の「最終赤字」を、4つの窓で見比べます。(対比の詳細は【決算教室③】ホンダの決算を読むもあわせてどうぞ)

4つの窓ホンダ日産
① どの段から赤字?営業段階から赤字(EV損失を営業費用に計上)営業は黒字(580億円)、特別損失で最終赤字
② 初めて?続いてる?上場以来初2期連続(前期▲6,709億円)
③ キャッシュは?営業CF+1.1兆円自動車事業FCF▲4,808億円(下期は+1,120億円に転換)
④ 配当は?年70円予想無配予定

出典:両社「2026年3月期 決算資料」より筆者作成

赤字の質を見る4つの窓でホンダと日産を比較した図解。どの段から赤字か(ホンダは営業段階から・日産は営業黒字で特別損失により最終赤字)、初めてか継続か(ホンダは上場以来初・日産は2期連続)、キャッシュ(ホンダは営業CF1.1兆円プラス・日産は自動車事業FCF4,808億円マイナスで下期はプラス転換)、配当(ホンダは70円予想・日産は無配予定)

①どの段から?②初めてか継続か?③キャッシュは?④配当は?——赤字はこの4つの窓で質を見るよ。

整理すると——ホンダが「一時費用の影響が大きい赤字」だとすれば、日産は「本業の利益率の薄さと、再建費用を同時に見なければいけない赤字」。同じ見出しの下に、これだけ違う中身があります。

③のキャッシュには大事な注意があります。日産の連結全体の営業キャッシュフローは約+7,947億円のプラスです。ただしこれには販売金融事業が含まれます。ホンダとの比較で見るべきなのは、会社が開示する自動車事業のフリーキャッシュフロー(通期▲4,808億円)のほう。ホンダ回の自己資本比率と同じで、「どの範囲の数字か」で見え方が変わる——ここでも確認できました。(参考:キャッシュフロー計算書の読み方

連結営業CFは+7,947億円のプラス、自動車事業FCFは▲4,808億円。“どの範囲の数字か”で見え方が変わる。

そして、フェアに見るべき点も同じ資料に書いてあります。赤字幅は前期から1,378億円縮小。自動車事業FCFは下半期に+1,120億円のプラスへ転換。自動車事業のネットキャッシュは1兆1,704億円を維持。「危ない」と単純に断定するのではなく、厳しい数字と改善の兆しの両方を、数字で確認する——それが決算を読むということです。

STEP4:トレンドと指標で深掘り

数年トレンドで見る——営業利益の“崖”

売上高営業利益純損益
2023年3月期10.6兆円3,771億円2,219億円
2024年3月期12.7兆円5,687億円4,266億円
2025年3月期12.6兆円698億円▲6,709億円
2026年3月期12.0兆円580億円▲5,331億円
2027年3月期(会社予想)13.0兆円2,000億円200億円

出典:日産自動車 公表資料・会社予想より筆者作成

トレンドで見ると一目瞭然。売上はほぼ同じ12兆円台なのに、営業利益は2024年3月期の5,687億円から翌期698億円へ急減——売上ではなく、収益力の水準そのものが大きく変わったことが読み取れます。スズキの「投資による小幅な踊り場」とは、形がまったく違いますね。(参考:増収増益とは?4パターン

なお、株式情報誌などの外部予想では、来期の営業利益を会社予想(2,000億円)より保守的に見る予想もあります。会社予想と外部予想は別物として、両方の存在を知っておく——これも大事な読み方です。

指標で見る——赤字期の指標・第2弾

※指標は株価や予想利益で変動します。2026年5月末ごろの株価水準に基づく概算です。

  • ROE:▲10.9%(赤字なのでマイナス。ホンダの▲3.5%より深い)
  • PBR:0.3倍前後と、かなり低い水準に見えます。ただしPBRが低い=すぐ割安、ではありません。市場が将来の収益力や再建の不確実性を慎重に見ている可能性があります。PBRは「なぜこの評価なのか」を考える入口として使いましょう(ホンダ回と同じ学びです)
  • 自己資本比率:約24%(連結・販売金融含む)——スズキ約51%、ホンダ連結約35%と並べると水準差が見えます。ただし金融事業を含む連結値なので、単純比較には注意
  • PER:赤字期は計算できず、来期予想ベースでは黒字化を前提にした数字に。分母がどの期・誰の予想かの確認は、ここでも必須です

PBRが低い=すぐ割安、ではない。市場がなぜこの評価をしているのかを考える入口として使う。

STEP5:再建計画と“答え合わせ”

日産は経営再建計画「Re:Nissan」を進めています。決算資料では、コスト削減の進捗や、生産拠点を17→10拠点へ集約する計画などが説明されています。

ここで大事なのは、計画の中身を丸暗記することではありません。再建中の会社では、「計画を発表したか」よりも「次の決算で数字に表れているか」が重要です。日産の場合、Re:Nissanで掲げたコスト改善や生産体制の見直しが、今後の営業利益率・FCF・販売台数にどう出るか——検証ポイントを持って、次の四半期決算を読む。予想を鵜呑みにするのでも、疑って終わるのでもなく、答え合わせを続ける。これが再建中の会社の決算の読み方です。

そして無配について。配当の回で学んだとおり、配当は約束ではありません。損益と手元資金の状況次第で無配になることもある——その実例です。(参考:配当利回り・配当性向

今回使った基礎記事(教科書との対応表)

今回見たこと対応する基礎記事
利益の階段(営業黒字→最終赤字)売上高・営業利益・純利益の違いP/Lの5つの利益
営業利益率で稼ぐ力を比べる粗利率・営業利益率とは?
赤字の“質”(ホンダとの対比)【決算教室③】ホンダの決算を読む
トレンドで収益力の変化を見る増収増益とは?4パターン
キャッシュの範囲に注意キャッシュフロー計算書の読み方
無配という判断配当利回り・配当性向
会社の計画と答え合わせ決算説明資料の読み方

今回の学び——まとめ

厳しい数字と改善の兆し、両方が同じ資料に書いてある。断定せず、数字で確認。次の決算で答え合わせだ。

  • 赤字は「4つの窓」で見る…①どの段から?②初めてか継続か?③キャッシュは?④配当は?——同じ赤字でも、見方は同じではない
  • 利益の階段は極端に動くことがある…営業黒字580億円→経常ほぼゼロ→最終▲5,331億円
  • 率とトレンドで水準を見る…営業利益率0.5%、5,687億円→698億円の変化。額だけでは見えない
  • 数字は「どの範囲か」を確認…連結営業CF+7,947億円⇔自動車事業FCF▲4,808億円
  • 再建中の会社は「答え合わせ」で読む…宣言した打ち手が数字になるか、検証ポイントを持って次の決算へ

自分でも確かめてみよう

ぜひ一次情報でも確かめてください。日産公式サイト「IR情報」から、決算短信・決算発表資料が無料で読めます。

今回のように、複数社の売上・利益・CF・指標を並べて見ると、同じ自動車メーカーでも中身が大きく違うことが分かります。証券会社の企業情報ページでは、業績推移、財務指標、決算情報をまとめて確認できることがあります。これからNISAや個別株投資を始める方は、手数料だけでなく、企業情報を比較しやすいかも証券会社選びの基準にしておくと、企業分析がしやすくなります。

※リンク先の記事にはプロモーションが含まれる場合があります。

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最終更新日:2026年7月12日

※本記事は、日産自動車が公表した決算資料等を教材として「決算の読み方」を解説する教育目的の記事であり、同社株をはじめ特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。赤字・黒字の評価や、株価・業績・経営再建の将来を予想・保証するものでもありません。記載の数字は2026年3月期決算(2026年5月13日発表)の公表情報および2026年5月末ごろの株価水準に基づく概算を含みます。最新かつ正確な情報は、同社の決算短信・有価証券報告書等の一次情報をご確認ください。株式投資には元本割れのリスクがあります。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。

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